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遐く遙かな昔──といっても、十六年前の平成二十三年──友人が華燭の典を挙げる豊国へ出かけ、式に侍り、宴に連なった折に、弟から借りて履いて出た黒い靴の底がボロボロ崩れ、べろりと取れてしまった時に次ぐ惨事と言うべきであろうか。当時僑寓していた海外僻陬から俄に帰朝して、用意も行き届かずに西下して、斯くなる仕儀である。
あの時は底抜けの靴にレジ袋を詰め、国東半島のゴツゴツした山道を少しだけ散策したのだった。眩く暑い晴天に、足許が濡れる気遣いはなかったけれども、足の裏に露わな地表の凹凸がとにかく痛かった。それに較べれば、ずぶ濡れの靴下裸足で候所に座り、靴の中には丸めた裏紙で、のんびり乾くのを待ち得た今回の禍は、格別「惨事」と形容すべき出来事でもなかったか。
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